ポリエチレンガイドPOLYETHYLENE GUIDE

溶媒溶解性・相溶性を備えた多機能ポリエチレン「レクスパール™ ET」

溶媒溶解性・相溶性を備えた多機能ポリエチレン「レクスパール™ ET」

レクスパール™ ETとは

レクスパール™ ETはエチレン-メチルアクリレート(MA)-無水マレイン酸(MAH)三元共重合体であり、本記事では、ETの開発品である高MA含量グレード、および高流動グレードについて紹介します。
なお、レクスパール™ 全般に関する内容は別ページ(レクスパール™ 製品情報)にて紹介しております。

高MA含量グレード(MFR:10g/10min、MA含量:30wt%)

MA含量グレードは、レクスパール™ ETカタロググレードと比べてMAの共重合比率を大幅に高めた開発品です。
本開発品は、MFR10 g/10minMA含量は30 wt%であり、結晶性を限りなく低下させることで、柔軟性と透明性を高めた設計としています。柔軟材料としての使用の他、異種の樹脂へのブレンドにおける耐衝撃性向上効果をさらに高めた材料です。

高流動グレード(MFR:600 g/10min、MA含量:23 wt%)

高流動グレードは、重合技術を駆使した分子構造制御により、高MFRかつ高MA含量を両立した開発品です。
きわめて高い流動性を生かし、ホットメルト用途への適用や、バイオマス原料の相溶化材などの用途を想定しています。ポリエチレン樹脂にフィラーを添加すると、通常は耐衝撃性などの物性が低下し、それらを抑えるために相溶化材を使用しますが、その反面、コンポジットの流動性が低下してしまうことが一般的です。レクスパール™ ETの高流動グレードは、相溶化材の添加による流動性低下を抑制する効果を持ちます。

高MA含量グレード 高流動グレード
MFR(g/10 min) 12 600
密度(g/cm3 0.957 0.947
MA含量(wt%) 30 23
MAH含量
融点(℃) 58 64

硬さ

デュロメータA

52 58
ビカット軟化温度(℃) <40 <40

 

特性

柔軟性
MA含量グレードと高流動グレードの大きな特長として、柔軟性が挙げられます。MA含量が高いことによる結晶性の低下、及び分子設計により柔軟性を高めた結果、高MA含量グレードはショアA52、高流動グレードはショアA58を示します。図1に高MA含量グレードのシート厚み4 mm)を示していますが、手で容易に変形できるレベルの柔軟性です。


図1 高MA含量グレードの柔軟性(4mm厚プレート)

透明性
透明性は結晶性の制御により調整が可能です。高MA含量グレードはMA含量を最大限高めたことで結晶性は極めて低く、高い透明性を発現します(図2)。透明性の指標であるヘーズの比較として、樹脂シート厚み1.1 mm)2枚のスライドガラス厚み1.3 mm)に挟んだ合わせガラスのヘーズは、カタロググレードの中では最も透明性の高いET350X4.7だったのに対し、高MA含量グレードでは1.9と、より高い透明性を発現することが分かります。

図2 透明性比較(左:ET量産グレード,右:高MA含量グレード)

溶剤への溶解性
MA含量、高流動性グレードともに、結晶性を抑えた分子構造設計と、高極性成分の割合を高めたことから溶媒和が容易となり、溶剤への溶解性に優れます。一般的なポリエチレンは、芳香族溶媒のトルエンやキシレンなどの限られた溶媒と高温条件でしか溶解しないのに対し、両グレードは非芳香族溶媒のシクロヘキサンやメチルシクロヘキサンにも溶解します。他にテトラヒドロフラン(THF)にも溶解可能であり、高極性に起因して極性溶媒への溶解性が発現すると考えられます。溶剤の種類によっては高濃度に溶解し、例えば、トルエンやキシレン、シクロヘキサンでは40 wt%まで溶解が可能です。このように、汎用ポリエチレンでは得られないような溶剤への溶解性を活用した用途展開が可能です。

接着性
レクスパール™ ETは、MAHの反応性による極性基との結合形成、およびMA共重合による高極性と柔軟性による被着物へのなじみ性が高いことで良好な接着性を発現します。中でも、高MA含量グレードは、無水マレイン酸の反応性のみならず、高含量のMAにより柔軟性と極性が高く設計されていることから、被着物表面の微細凹凸によくなじみ、高い接着性を発現します。ベースはポリエチレン骨格であることから、ポリエチレンに対する接着性は言うまでもなく、一般に接着が困難であるPPPVCにも僅かながら接着性が発現します。

相溶性
両グレードともMAおよびMAHを共重合していることから、極性樹脂やフィラーに対する相溶性が発現し、中でも高流動グレードでは分子量を低く設計すると共に、MAHの配合バランスを適正化しています。この結果、バイオマス原料等を相溶化させる場合、架橋構造を形成するため通常は流動性が低下しますが、高流動グレードはこのような分子設計とすることで、流動性の低下が抑制されます。

流動性
高流動グレードのMFR600 g/10minであり、高い流動性が求められる用途に適しています。単体で用いる他、別の樹脂にブレンドすることで流動性を高めることも可能です。

想定用途

  • 樹脂改質材
    MA含量グレードは、その高い柔軟性を生かして樹脂改質材として好適に用いられます。MAHによる極性樹脂との親和性の高さに加え、MA含量が高いことで極性が高まり、各種の極性樹脂やフィラーとの相溶性が向上し、微分散が可能となります。樹脂自体の柔軟性の高さ、及びポリエチレンベースに由来する低温特性の高さから、耐衝撃性の向上効果や低温衝撃性の向上効果が発現します。

  • ガラス中間膜
    MA含量グレードはガラスとの接着性が良好であり、透明性にも優れることから、ガラス中間膜としての使用可能性が挙げられます。

  • 塗料、インキ
    両グレードの優れた溶剤への溶解性を生かし、塗料やインキといった用途への展開可能性も考えられます。本用途では溶剤への溶解性の他、分散させる含量や添加剤との相溶性も重要ですが、レクスパール™の極性の高さとMAHによる結合形成が分散安定性に寄与します。

  • 接着剤
    両グレードに特有の溶剤溶解性と接着性を生かした用途として、接着剤用途も挙げられます。幅広い溶剤に溶解するため、トルエンフリーに対応する製品にも適用が可能であり、無水マレイン酸の持つ接着性を生かした異種材料との接着が可能です。主骨格はポリエチレンであるため、一般のポリエチレンとの接着性も良好であり、多層ラミネートにおけるポリエチレンや金属との接着層としての利用も可能です。

  • ホットメルト
    高い流動性と接着性が求められるホットメルト用途に対し、高流動グレードを主材や添加材として使用することが可能です。極性樹脂や金属、紙など、MAHと反応する官能基を持つ材料であれば接着できる可能性があります。さらに、融点が60℃台と低いことから、加工温度を下げることも可能です。

  • 相溶化材
    両グレードともバイオマス原料などの相溶化材として適用が可能です。バイオマス原料をポリエチレンに相溶化させる場合、架橋形成による流動性の低下を抑えることが課題となりますが、高流動グレードは素材自体が高い流動性を持つことに加え、架橋形成が起こりにくいポリマー設計とすることで流動性の低下を抑えることが可能です。

    LLDPEに木粉20 wt%をブレンドした系における相溶化の事例を示します。LLDPEと木粉のみのブレンドでは、木粉との界面強度が低く、靭性が低下して引張衝撃強さが低下します。そこに相溶化材としてMAHグラフト変性PE、及び高流動ETをそれぞれLLDPEに対し30wt%添加した場合、耐衝撃性の向上効果が得られます(図3)。これはLLDPEと木粉の界面に相溶化材が介在し、MAHと木粉の水酸基が結合を形成することで界面強度が向上するためです。一方、流動性に関してはMAHグラフト変性を添加した系では架橋形成により流動性は低下する傾向にありますが、レクスパール™高流動グレードの系では流動性が向上する効果が得られます(図4)。すなわち、高流動グレードでは相溶化効果と、流動性維持による成形性の両立を図ることが可能です。
    なお、相溶化効果を最適化したグラフト変性系の相溶化材については別記事で紹介しています。


図3 木粉30 wt%ブレンド相溶化における耐衝撃性向上効果


図4 木粉20 wt%ブレンド相溶化における流動性変化

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