ポリエチレンガイドPOLYETHYLENE GUIDE
本記事で紹介するレクスパール™は、エチレン―アクリレート共重合技術をベースとした高機能ポリエチレンの製品群であり、「レクスパール™ EMA」、「レクスパール™ EEA」、「レクスパール™ ET」を上市しています。
いずれもアクリレートなど共重合成分の極性基や反応性官能基に由来した特徴的な性能を活かし、多方面への用途展開を進めています。特に、レクスパール™ ETは構成成分の1つとして反応性の高い無水マレイン酸(MAH)をポリマー鎖中に導入した高機能なポリエチレン系共重合体であり、当社が国内唯一のサプライヤーです。
レクスパール™は共重合モノマーの特性、および分子構造により、様々な特性を発現します。一般的なポリエチレンは非極性ですが、レクスパール™はアクリル系モノマーを共重合していることから、ポリエチレンに比べて極性が高く、ポリエステルやポリアミド、セルロース系といった極性樹脂、あるいは極性官能基を持つ各種フィラーとの親和性が高くなります。
レクスパール™はLDPEと同様の高圧法プロセスにより製造され、長鎖分岐構造を持つ低結晶性の基本骨格であることから、透明性や柔軟性が高く、フィラー受容性に優れるといった特性を持っています。結晶化度の観点では、コモノマー含量が高いほど結晶性が低下し、透明性や柔軟性などの特徴がより強く発現します。別記事で紹介するコモノマー含量を限界まで高めた開発品では、顕著な透明性や柔軟性が得られることに加え、溶剤への溶解性が優れるといった新たな特徴も発現します(関連ページ)。
また、レクスパール™はガラス転移点が低く、脆化温度は-70℃未満であるため、耐寒特性に優れた材料となっています。レクスパール™単体の成形品が低温特性に優れることは言うまでもなく、各種材料にレクスパール™をブレンドすることで低温特性の向上を図った適用例もあります。
各ラインナップに共通する特徴と、異なる特徴とがあることから、それぞれについて詳しく紹介します。
EMAはエチレン-メチルアクリレート(MA)共重合体で、柔軟性やヒートシール性が高く、一部のMA含量が高いグレードは高周波ウェルダー加工ができるなどの特徴を有しています。
(1)EVAとの比較
機能面での特徴が近いEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)と比べた場合、EMAは高温環境下においても脱酢酸が起こらず熱安定性に優れ、成形機を腐食させにくい利点があります。熱分解温度の観点では、EVAは200 ℃程度から分解が始まって脱酢酸が起こるのに対し、EMAはコモノマー構造の違いにより脱酢酸が生じず、300 ℃を越える温度領域で分子鎖の熱分解が開始します(図1)。 脱酢酸によって成形機の腐食や、成形品の酸成分による臭気の発生が懸念されており、改善のためにEMAが採用されるケースがあります。
図1 EMAとEVAの熱分解性比較
熱安定性についても両者に違いがみられます。ラボプラストミルのブラベンダーを使用した混練試験において、240 ℃で混練を継続した結果、EVAは約10分後にトルクの上昇が見られるのに対し、EMAではトルク変化はほとんど見られません。この結果からも、EMAの高い熱安定性が示され、例えば成形機内での滞留でゲル発生が起こりにくいといったメリットが認められます。
(2)低温ヒートシール性
EMAはコモノマー含量に応じて融点が低下することから、低温ヒートシール性に優れることも優位性の1つです。フィルム(厚み30 μm)のヒートシール試験で、一般的なLDPEが十分なヒートシール強度を確保するにはおよそ120 ℃以上が必要なのに対し、MA含量20 wt%のEMAでは100 ℃程度から高いヒートシール強度を発現します。この特性を利用し、EMAを多層フィルムのヒートシール層に用いて低温シール性を発現させることで、低温成形による省エネやサイクルタイム向上といったメリットが得られます。
(3)シルクライクタッチ
EMAの特殊グレードとして、シルクライクタッチのコンパウンドグレード「EB033FC」をラインナップしています。EMAが持つ柔軟性に加え、添加剤の配合技術により表面状態をコントロールすることで、例えばディスポーザブル手袋にしたときに適度な滑り性を付与することができます。
EEAはエチレン-エチルアクリレート(EA)共重合体であり、EMAと類似のコモノマー構造であることから、柔軟性や透明性等の特性はEMAと同様ですが、両者の製造プロセスの違いに起因する結晶状態の違いにより、同一コモノマー含量で比較したときの融点は、EEAの方が高い傾向を示します。例えばコモノマー含量20 wt%のグレードで比較した融点は、EMAが77 ℃、EEAが94-96 ℃で、約20 ℃の違いがあります。よって、EEAではコモノマー含量を高めても柔軟性やフィラー受容性と高融点の両立が可能であり、耐熱性が求められる用途、例えばアスファルト改質や、自動車向け樹脂材料の改質などに有用です。
コモノマー含量の高さはフィラー受容性の高さにもつながり、例えば難燃電線向けグレードにおいて、無機系フィラーを50wt%以上含有しても、物性や成形性を維持することが可能です。
レクスパール™ ETはエチレン-MA-MAH三元共重合体であり、分子鎖中にMAHが導入されています。EMAの柔軟性に加え、MAHが有する他の官能基(水酸基、アミノ基等)への反応性により、接着性や相溶性、極性フィラーの分散性などに優れます。また、MAHの変性により他の官能基の導入も可能です。
(1)樹脂の改質効果
改質事例として、ポリアミドやポリエステル等の極性基を持つ樹脂にブレンドした際の耐衝撃性向上が挙げられます。ポリアミド等が持つ極性基に対し、レクスパール™ ETの無水マレイン酸が反応することで化学結合を形成し、樹脂中に微分散することが可能となり、種々の改質効果を発現します(図2)。
PA6に対してET350Xをブレンドした系のシャルピー衝撃強度は、無添加のPA6に対し、ET 10 wt%添加で約2倍、20 wt%添加で約3.3倍に向上する効果が得られます(図3)。 PBTに対しても同様で、ET 20 wt%添加で約3倍のシャルピー衝撃値の向上効果が得られます。これらの結果は、ETの無水マレイン酸がPA6のアミノ基やPBTの水酸基と結合し、ET自体の柔軟性と相まって耐衝撃性を発現したものと考えられます。その他、低温特性が高いポリエチレンの特長を生かし、樹脂ブレンドによって低温衝撃性の向上を図る例もあります。
図2 ポリアミド中へのET微分散
図3 ETブレンドによるPA6改質効果
(2)接着性
レクスパール™ ETは無水マレイン酸の反応性に由来した化学結合の形成と、MAに由来した柔軟性や低融点により被着材との密着性が向上することで、高い接着性が発現します。被着対象としては金属やガラスの他、PAやPET、セロハンが挙げられます。コモノマー含量が高い開発品ではさらに接着性が向上しており、PPやPVCといった難接着材料に対しても、特定の条件で接着することが可能です。
(3)相溶化材
レクスパール™ ETはEMAと同様、熱安定性に優れることや、低融点のため低温成形が可能であることから、繰返し使用における物性低下を回避し、リサイクル使用における物性維持が比較的容易です。一方、レクスパール™は単独使用よりも、樹脂ブレンド、多層フィルムなど、異素材と複合して使用するケースが多くなります。その場合、レクスパール™はメチルアクリレートによる極性向上と、無水マレイン酸の反応性による界面強度の向上や、架橋形成による諸物性の向上等の効果が合わさることで、相溶化材としての効果を発現します。これにより、相溶性の無い異種材料の界面にレクスパール™が介在することで界面強度が高まり、物性が向上することで、通常では再生利用が不可能な素材の組合せでもリサイクルが可能となります。
当社では、レクスパール™の他、相溶化性能に特化した樹脂設計の無水マレイン酸変性型相溶化材もラインナップしており、より高い相溶化効果を狙うことが可能です(関連ページ:作成中)。
(4)類似材料との差異
無水マレイン酸を持つ類似のポリオレフィン系材料としてグラフト変性ポリオレフィンがありますが、グラフト変性では過剰量の無水マレイン酸を使用することから、未反応の酸モノマーが残存しやすいのに対し、レクスパール™ ETでは重合段階で無水マレイン酸がポリマー鎖に組み込まれることから、未反応の酸モノマーは少ない傾向にあります。よって、遊離酸による成形機の腐食や、成形品の酸由来の臭気懸念が低いことが特長です。
パッケージング
レクスパール™は食品包装材や工業用包装材の構成成分一つとして使用されます。低温でのシール性が高く、接着性に優れる点から多層包材の接着層やシーラント層に用いることができます。さらに、レクスパール™ ETは相溶化材としての機能により、PA/PE多層フィルム等のマテリアルリサイクルにも適用が可能であり、環境配慮素材としても注目されています。
自動車材料
レクスパール™は、自動車産業において多岐にわたる用途で使用されています。例えば、車両の内装部品や外装部品に使用されるポリアミドやPBT、アクリル系樹脂などに改質材として添加することで、耐衝撃性や摺動性を改良したり、成形加工性を調整したりといった機能を付与することができます。
アスファルトの改質
レクスパール™をアスファルトに添加することで、耐久性、柔軟性、耐水性が向上し、道路舗装や橋梁、ルーフィングなどの用途で使用する事ができます。例えば、改質アスファルトは塑性変形抵抗性やひび割れ抵抗性の改善が見込まれます。
接着剤や塗料
共重合するコモノマーの含有量を高めたレクスパール™は、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、THF、テルピネオールなど多種の溶剤に溶解する事が可能です。一般的なポリオレフィンは溶解工程で加熱する事でトルエンなどに溶解させることができますが、室温まで冷却すると樹脂が析出してしまいます。しかし、レクスパール™の高コモノマー含量グレードであれば、室温でも溶解状態を維持できる組み合わせがあり、接着剤や塗料などの用途への応用が検討されています。また、融点の低いグレードでは、水性ディスパージョンへの加工も可能であり、環境負荷低減をコンセプトとした水系塗料や水性接着剤への展開も視野に入れています。
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